笑うことによって、つながり結ばれ仲良くなることもできるし、たがいを嘲罵して分断することもできる。愛想を託して危機回避することもあれば、ストレス環境下でなんとかやり過ごすためにみずから必要最小限の快を作ることもできる。笑いというものや笑うということをどのように使うか、その使用のほとんどがじぶんに委ねられているといえる。

 だからこそ、笑いには、そのひとの知性と人生があらわれる。そのひとがどんな風に笑うかということが、どんな風に生きるかという問いの回答になっている。みんなで声を出して笑うことで共感するか、たったひとつの嘲笑で他者を損ねるか、愛想笑いで厄介なひととその場限りの協調をしてみせるか、苦し紛れで笑ってストレスをギリギリまで和らげるか。微笑みうつ病というものもある――どんな用法・用量が正しいのか、じぶんで決めなければならない。

 

 以前みかけたポートレイトの評にこんなことが書いてあった*1。「自然な笑顔の前では、写真の細かい技術や構図なんてどうでもよくなります」――ほんとうにそのとおりで、笑顔を向けられるとたちまち深刻がることができなくなる。撮影に関するあらゆる悩み事が、笑顔の前で紛失する。じぶんの未熟さからくる失敗とか、不幸とか、嫌な思いとか、そういう不安をかんたんに吹き飛ばしてくれる。

 裏も含みもない楽々な笑顔は、どんな悲愴な顔にも同期できる。だれかが笑うことで、みんなも笑える。この写真の撮影をした昭和記念公園には汽車が走っており、私はその汽車の物まねをした。大根役者のような手つきと、蒸気機関車の貧しい声真似。それを見て笑うモデルさん、その笑っているモデルさんを見て笑う私、それを見てまたモデルさんが笑う。ことばにするとじぶんでもしんどくなるほどつまらないワンシーンだが、私たちは腹を抱えて笑った。 

 そんなワンシーンが人生のどこかにあるはずで、そのくだらなさに何回でも笑ってしまうかもしれない。笑っているあなたを見て、隣のケンジが笑うかもしれないし、向かいのエリカが笑うかもしれない。いやべつにジョージでもキャサリンでもだれでもいいんだけどね。たぶん、笑うんだ。

 

 笑顔を向けてもらえると、その瞬間だけは人生の深刻さを忘れることができる。

 だいじなものを投げ出しそうなとき、追いかけたかったものを諦めそうなとき、生きる答えのなさにうちしおれそうなとき、他人の理不尽さに倒れそうなとき、じぶんの不完全さに嫌悪や憎悪をおぼえたとき、社会の未熟さに心をくだいたとき、未成熟な価値観を押しつけられて卑屈になったとき、ことばの海に溺れて真意を見失ったとき、そんなときに差しのべられた含みのない笑顔は救済になりえる。出口のない暗闇に埋もれそうなところを救ってくれ、底のない穴に落ちそうなところを掬ってくれる。

 笑いというのは、深刻な思考を無力化する音楽の序奏である。あるいは、考えなくてもよかった〈あのころ〉に一時帰国するための汽車である。笑っているときになにかを考えることはできないし、それこそが笑うことの最大のしあわせだと思う。

 笑えないときは、些細なことさえ言えなくなってしまう。冗談も言えなければ、ジョークも言えない。愛を伝えることもできないし、友情を届けることもできない。笑顔というのは、深刻にならなくてよかった人生の、つまり大切なことを見失わないような生きかたのことである。

 笑っている写真というのは、そのときなにも考えていなかったという証拠で、〈私〉がエゴに独占されていなかった瞬間の貴重な思い出となる。笑顔の写真を撮ることは、そのひとの生の深刻ではない面を、その手で残すということと等しい。そのひとが笑顔に込めてきた生の祈りとか、笑顔に容れてきた人生の平和な面影をじぶんなりに記録することでもある。

 そのひとの人生に向き合えるかどうかが問われる。ニコパチなどと揶揄されることもあるが、笑顔を撮ることはそれほど簡単なことではない。写真を撮るということが、単なる記録的なことや技術的なことではなく、より人生的になってゆく感覚をおぼえる。

 

 

写真

1枚め:「石と石のあわい」(PENTAX K-50, f2.5 – 1/6000 – ISO200:はさまっていてすごくかわいいです)

2枚め:「センター!」(PENTAX K-50, f2.2 – 1/320 – ISO200:センターだから踊りうまかったです)

3枚め:「ステップ・オーバー・溝」(PENTAX K-50, f2.5 – 1/6000 – ISO200:私もおなじ体勢になってみたのですが、ふつうに怪我しました。体のやわらかいモデルさんです)

4枚め:「おもしろいこと」(PENTAX K-50, f2.5 – 1/6000 – ISO800:汽車の真似したあとです。日陰で暗かったのに設定まちがえました)

5枚め:「うしろむき」(PENTAX K-50, f2.2 – 1/250 – ISO200:うしろむきです)

6枚目:「ふたつの花」(PENTAX K-50, f2.5 – 1/6000 – ISO800:撮影しに来たのに芸人トークしながら花見で和んでしまった感じです。コンビ仲のいいコンビが好きだそうです)

 

モデル

眠子守歌/こしゅか。@koc_chm

H10/9/19(18歳)、乙女座、B型、学生

 すきなもの:オムライスと生クリーム、ねこがすき(ミヌエット)

 すきなこと:あおむけだと幸せ

 だいじなこと:「平和に行こう生きよう!」「家が白ほりです」

 

ロケーション

昭和記念公園(the Showa Kinen Park)、立川市、東京

 

注釈

*1:『フォトテクニックデジタル 2017年1月号』ポートレート部門・次点に選ばれた「たからもの」に対する評(選評者・青山裕企さん、撮影者・denizさん、モデル・じま太さん)から抜粋。「タイトルと写真がマッチしていてよかったです。大切な女性を撮っているんだなという気持ちが伝わってきます。自然な笑顔の前では、写真の細かい技術や構図なんてどうでもよくなります。夕日、遮光からのハレーションは、女子ポートレートの王道ですね。くしゃっとした笑顔は、モデルだけが嫌がることもあるので、気に入ってくれてるといいですね。」が全文。