桜は難しい。
桜の話をどこかで書いたり話したりするたびにそのことを最初に言うようにしている。
まず技術的側面から言うならば、桜は色が淡いので遠近感や凹凸がつけづらい。昼の光は透過しやすいし、夜のライトアップでは光が被りすぎる。さらに日本中どこでも写真が撮られてしまう期間でもある。海外でもつとに有名な日本人の桜狂いは、デジタルカメラやスマートフォンの普及によって一層促進されることになった。3月末ともなると、日本中のスマホの画面が桜の写真を撮ったり見たり投稿したりするために日々こすられる。
一説によると、この時期の酷使のためにスマホの画面は0.00002mmも削り取られるらしい。
桜の魔力、恐るべしといったところだろう。

さて、そのような一億総桜狂時代の中では我々フォトグラファーはネット上にあふれかえる桜の画像を前にして、少なくともほんの僅か、0.00003秒程度でも見ている人の意識を奪えるような写真を撮りたいと思っているが、なかなか至難の技だ。
その困難なタスクを完遂するには、できるだけ多くの桜情報を事前に集めておきたいというのが人情。
ということで、今日は私の地元である滋賀県の桜写真の名所をご案内したいと思っている。
有名所を2箇所、これから多分有名になりそうなところを2箇所。是非すぐ目の前に迫る春の撮影候補に加えてほしい。

1) 琵琶湖疏水(滋賀県大津市)

最初に私の写真の原点をご紹介したい。
写真というよりも、美意識という方が近いのかもしれない。滋賀県大津市にある琵琶湖疏水から見る桜の風景だ。
この疎水はマツコ・デラックスさんと村上信五さんの番組「月曜から夜ふかし」で有名になった、滋賀人VS京都人の決め文句である「滋賀県馬鹿にしたら琵琶湖の水とめたるぞ」の全ての根拠になっている場所だ。ここから琵琶湖の水が疎水を通り、京都の東山区にあるインクラインの近辺を通って、京都市に水が供給されている。
私はこの近くにある小学校に通っていたのだが、学区外の幼稚園からの入学で不安いっぱいの入学式の日、この疎水の沿道で満開の桜が並んでいるのを見て、束の間、不安と緊張を忘れたことをとても強く覚えている。その瞬間に刻印された印象は、まさに私の「美しいもの」の基盤を作ったのだと思う。
「美しい」という言葉もまだ知らない6歳の私の魂の底に刻まれた最初の「特別な風景」がこの場所なのだ。だから私は、カメラをはじめた時に最初にこの風景をなんとかしてきれいに撮りたいと考えたのだった。カメラ歴現在7年。これまでまだ、あの小学一年生の時に感じたような圧倒的な美しさの感覚を自分の写真で捉えられていない。
今年こそはと思っているし、皆さんにも是非この場所を美しく撮って欲しいと思っている。

2) 彦根城のお堀の桜(滋賀県彦根市)

この場所の桜の写真で、私の人生が大きく変わった。
三年前、この場所で撮った一枚の写真を、何気なく「なんとかカメラクラブ?」というところのフォトコンテストに締め切り数時間前に応募をした。コンテストに応募できる上限枚数はたったの3枚。でもその頃私は写真のストックなんてぜんぜんなかったものだから、最初の二枚に最も自信のある写真をぶつけて、最後の余った一枚に何を選ぶか迷った挙句に、最後の一枚の枠に「まあ、これでも入れておくか」という感じでこの写真を入れたのだった。
結果、その一番の自信作だった最初の二枚は落選して、この写真が入選となった。入選結果が「渋谷ヒカリエ」で展示され、あれよあれよという間にその年の暮れにそのグループの年間10人のフォトグラファーに選ばれることになったのだが、もしあの時この写真を応募していなかったら私はヒカリエにも行かなかっただろうし、そうなるとその後写真を撮り続けるモチベーションも生まれなかったのかもしれない。そう思うと、桜狂いの日本人らしい、人生の変わり方だなと思っている。

さて、この場所は是非皆さん自分で足を運んで頂きたい。
上の琵琶湖疏水もそうなのだが、この場所を初めて見たときの圧倒的に巨大な、目の前に迫りくる「桜の城」の迫力を体験してほしいのだ。
特にその全景がお堀の水の上にリフレクションを作ったときの、空間全体が桜に変貌したような迫力は見た人間にしか伝わらないように思う。そしてそれを是非写真に収めてほしい。

ただ、最近少し有名になりすぎて人が集まりやすいのが難点。お堀のすぐそばが車道になっているので、撮影には十分気をつけてほしい。

3) MIHO ミュージアム(滋賀県甲賀市)

あまりにもヘヴィな思い入れのために前の二つが随分長くなってしまった。
残り二つはさらっと行こう。ここからはまだまだあまり知られていない場所を二つ。
一つはまず、滋賀県甲賀市の山中にある美術館、MIHOミュージアムの桜。こちらの桜は、その美しい姿をトンネルの中から捉えることで、普通の桜の写真とはちょっと違った面白い一枚が撮れる。数年前までは本当に知る人ぞ知るという場所であったけれども、徐々に知られつつある。
今お見せした一枚は定番の構図だが、もっと色んな撮り方ができる場所だと思っている。

4) 高時川桜並木(滋賀県長浜市)

そして最後は、本当にまだまだあまり知られていない、これから間違いなく有名になっていくことが予想される穴場をご紹介したい。
滋賀県の北部、長浜市の「高時川」の沿道の桜並木だ。
一枚目は沿道の中から、二枚目は沿道をちょっと外れた河川敷から、一本だけ並木から外れて立っていた桜を満開の菜の花と一緒に撮影した。写真をご覧になって頂けばわかるように、こんなに美しい桜並木なのに人がぜんぜんいない。
私が撮影にいったのは2015年の4月12日の日曜日の朝7時から8時頃で、そんな時間帯にこんなにも美しい並木があれば、京都や大阪なら花見客で大混雑するはずなのだが、たっぷり一時間以上、私はこの場所でほぼ無人の桜並木を撮影し続けることが出来た。
冒頭にも書いた通り、スマホの普及で誰も彼もがこの時期桜を目指す日本にあって、これだけ静謐で美しい光景もなかなか見られないと思う。少し遠いが、是非皆さんの撮影リストの中に加えてほしいと思う。

というわけでまずは昼のオススメの四ヶ所を今回はご紹介した。次回も桜の話は続けようと思っている。